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主にゲーム制作に関することを書いていきます

2015/07/31 : UnrealEngine

書籍 『Unreal Engine 4 で極めるゲーム開発』 レビュー

株式会社ボーンデジタル様の書籍レビュアー募集企画に当選し、『Unreal Engine 4 で極めるゲーム開発』 を頂きましたので、レビューしたいと思います。ボーンデジタル様、ありがとうございます。

結論から言うと、現時点で間違いなく最高峰の UE4 入門書であり、UE4 を扱う人であれば全員読んでほしいと思える内容です。

注意

  • 本書の概要は、公式の書籍基本情報ページで確認してください
  • 本書は UE4 の入門書ですが、私は UE4 歴半年であり、全くの初心者が書いたレビューではありません
  • 初版第 1 刷に対するレビューです
  • 2015/07/31 現在、本書に付属する『購入者特典ダウンロードデータ』はデータ制作の遅延により段階的公開とされているため、一部のコンテンツが公開されていない時点でのレビューとなります
    • 公開されているコンテンツ
      • イントロダクション
      • リソース
      • 章単位のプロジェクトデータ
    • 公開されていないコンテンツ
      • 追加ドキュメント
      • ハンズオン動画
      • 最終状態のプロジェクトデータ
      • バージョンエラッタ

以下、良い点と惜しい点を挙げていきます。

良い点

信頼できる制作スタッフ

著者の湊和久氏といえば、GREE で開催された『Unreal Engine 4 ビギナー勉強会』にて、40 分でブロックくずしを作るセッション『Blueprint でさくっとマイゲームを作ってみる』を行った人です。

UE4 の一般公開からまだ一ヶ月という時期に行われたこのセッションは、UE4 や Blueprint を知らない当時の私達に大きなインパクトを与えるものであったと記憶しています。この時期に既に UE4 を使いこなしていた湊氏は、UE4 本の著者として大変信頼できます。UE4 専門のゲーム開発会社である株式会社ヒストリアの佐々木瞬氏が協力している点も、本書の信頼性を高めています。

また、本書の学習用リソースとして提供されている各種アセットは、現役でゲーム開発に携わっている専門のスタッフが制作しています。これについては次項に記述します。

質の高いアセットリソース

ゲームエンジンは様々な職種の人が扱うものですが、大抵の場合、ゲームエンジン本の著者はプログラマであることが多いかと思います (湊氏もリードプログラマという肩書を持っています)。そのためか、ゲームエンジン本に付属する画像・3D モデル・音楽などの学習用アセットリソースは、(頑張って用意した著者の方には大変申し訳ないですが) 質があまり高くないことが多く、そもそも提供されないこともあります。

前述のとおり、本書のアセットは専門のスタッフの手によって制作されたものであり、質が高いと言えます。量も十分で、テクスチャに関しては、Normal Map や Roughness Map、ものによっては Specular Map が用意されていたり、効果音に関しては、足音を交互で鳴らせるようにするために 2 つ 1 セットで用意されていたりします。

物理アセットやマテリアルの調整を行う項で実践的かつ説得力のある解説が展開されるのも、ライティングやポストプロセスマテリアルの効果を実感できるのも、そして何より楽しみながら本書の実践が行えるのも、アセットの質の高さのおかげです。

実際のゲーム制作のワークフローを強く意識した内容

第 1 章において

本書では、それぞれの機能が、実際のゲーム制作において、どの順番でどう使われ、どのように連携するのかをラーニングすることに焦点を置いています。 (p.1)

と書かれているとおり、本書は実際のゲーム制作のワークフローを強く意識した、極めて実践的な内容になっています。この点で、単なるゲームエンジンの機能解説本とは一線を画しています。

本書は、第 4 章を丸々費やして一般的なゲーム制作のフェーズやワークフローについて紹介し、それ以降の章で、ワークフロー上の個々の作業について解説するという構成になっています。解説の都合上、章の順番と作業の順番は一致していませんが、以下のような対応表1が用意されているので、「今自分はワークフロー上のどの作業を行っているのか」を意識しながら学習することが可能です。

また、チームでゲーム制作を行う人達向けの配慮もなされています。以下のように各章のはじめに『職種アイコン』が用意され、「どの職種に当たる人がこの章を読むべきか」が明確になっている他、第 9 章では「エンジニアやレベルデザイナ以外の人間が Blueprint の使い方を覚えることによって、作業の流れがどれだけ改善されるか」が示されています。

丁寧でわかりやすい解説

本書の解説は全体的に親切丁寧でわかりやすいという印象を受けました。本書が扱う範囲はそれなりに広く、様々な概念やエンジンの機能を理解する必要があるのですが、説明の意味が理解できないような箇所は自分にはありませんでした。

解説がわかりやすい理由としては色々なことが考えられます。以下に列挙してみます。

  • 単純に文章がわかりやすいため
    • 例え話や具体例の出し方が適切
    • 補足 (Tips、Note、Column) が豊富
    • 各手順を行う理由がしっかりと説明されているため、納得して作業を行える
    • 作業手順がかなり詳細に記述されている
      • 第 23 章 (本書の 2/3 が終わったあたり) から Blueprint の手順解説が詳細ではなくなりますが、その頃には Blueprint の扱いにある程度慣れているはずなので、問題ないと思われます
  • 各章の目的が明確であるため
    • 各章の内容がゲーム制作ワークフロー上の作業と対応していることに依る
  • UE4 が優秀なエンジンであり、習得が難しい概念の学習を一部スキップできるため

特に最初のうちは丁寧な補足情報が随時入るため、UE4 を初めて触る方でも、詰まったり迷子になったりせずに読み進められるかと思います。

また、第 23 章のビヘイビアツリーの説明が大変わかりやすく、これまで UE4 をバリバリ使ってきた知人たちの間でも、かなり評価が高い部分です。日本語によるビヘイビアツリーの解説自体が未だに少ないということもあり、大変ありがたいです。

バージョンエラッタによる継続的なサポート

UE4 は更新頻度が非常に高いゲームエンジンであり、出版された本の内容がすぐに時代遅れになってしまう可能性があります。

しかし、本書では今後 1 年間に渡ってバージョンエラッタ情報が提供される予定ですので、UE4 の最新バージョンを利用しながら、問題なく本書を読み進めることができそうです2

バージョンエラッタ (VersionEratta.zip) : UE 4.8 以降を使って本書のハンズオンを進めた場合の注意点を簡単にまとめた情報を提供します。2016 年 7 月まで定期更新を続ける予定です。 (p.5)

その他

その他、細かい部分ですが、良いと思った点を列挙していきます。

  • チュートリアルタイプの入門書であるにも関わらず、それなりに網羅性が高い点
  • ひととおりの選択肢を挙げた上で、著者おすすめの方法を理由付きで示している点
    • おすすめの操作方法 (p.27)
    • お勧めのレイアウトは? (p.34)
    • (カスタムイベントと関数を) どうやって使い分ける? (p.324)
  • ゲームエンジン本で比較的ないがしろにされがちな、サウンドに関する記述がしっかりしている点
  • UE4 のハマりどころのひとつである、「エンジン内で統一されていない座標系」に関する言及がある点 (p.217)
  • カバーを取っても表紙がカラーで綺麗である点 (←個人的には重要なポイントです)

惜しい点

誤植の多さ

個人的には「技術書に誤植はつきもの」だと考えていますし、正誤表の提供や更新が早いためそこまで問題視していませんが、誤植が多いか少ないかと言われると若干多いかなという気がしましたので、惜しい点として挙げさせていただきました。

公式の書籍基本情報ページ に正誤表がありますので、確認しながら読み進める必要があります。

なお、2015/07/31 時点で正誤表には載っていない、些細な誤字や誤植をいくつか発見しましたので、以下に挙げておきます。

  • p.1 単純な誤字
    • 【誤】 順番に、昨日トピックごとに紹介する
    • 【正】 順番に、機能トピックごとに紹介する
  • p.17 最近行われた UE4 ドキュメントサイトの仕様変更によって誤りになってしまった部分
    • 【誤】ページの右上に日の丸のアイコンがあれば、クリックすることで日本語訳に~
    • 【正】ページ右上のプルダウンメニューに「日本語」の選択肢があれば、クリックすることで日本語訳に~
  • p.50 図 4.9 の誤植
  • p.134 記述の重複
    • 【誤】 アンリアルエディタに実在する「レイヤ」という名前の機能です。に実在する「レイヤ」という名前の機能です。
    • 【正】 アンリアルエディタに実在する「レイヤ」という名前の機能です。
  • p.274 単純な誤字
    • 【誤】 これまでの章ではすべて UE4 が標準で用意たイベントを使っていました。
    • 【正】 これまでの章ではすべて UE4 が標準で用意たイベントを使っていました。
  • p.369 Blueprint 名の誤り
    • 【誤】1. [PNRabbitPawn] のブループリントエディタに戻り、
    • 【正】1. [PNPawn_Rabbit] のブループリントエディタに戻り、

購入者特典ダウンロードデータ提供の遅延

前述のとおり、2015/07/31 現在、購入者特典ダウンロードデータは一部が未提供の状態です。本書の本来の発売予定日は 2014/11/27 であり、これ以上の発売延期を避けるためにデータの段階的提供という手段に踏み切ったのではないかと推測されるのですが、できればすべてのデータを揃えた状態で発売してほしかったです。

特に、追加ドキュメントは「追加」と銘打ってあるものの実質的には本書の一部であると考えられ、これがない現状の本書は若干尻切れトンボ感があります。

とはいえ、これは時間が解決してくれることですので、そこまで大きな問題ではないと思っています。

総評

色々と書きましたが、最初に述べたとおり、本書は現時点で間違いなく最高峰の UE4 入門書であり、UE4 を扱う人であれば全員読んでほしいと思える内容です。

最近、ドラマ『デスノート』のリュークやレムが UE4 にて描かれていることが明かされた り、PS4 版『ドラゴンクエスト XI』の開発において UE4 が採用されていることが発表される など、UE4 の採用事例を多くみるようになり、ユーザーコミュニティも活性化してきているように感じます。このようなタイミングで本書のような優良な入門書が出版されたことは、大変喜ばしいことだと思います。

UE4 に興味のある方は是非この本を手にとって、UE4 で遊んでみることをオススメします。

おまけ

超有益なペーパーニンジャ裏ワザ情報です。

  1. この対応表には誤植があり、実際には、最終章である第 29 章が『BGM と効果音』で、『ゲームの GUI を構築する』と『パッケージを作成する』の章は本書内に存在しません。恐らく購入者特典ダウンロードデータの追加ドキュメントの方に移動されたのだと思われます。

  2. ちなみに、似たようなサポートを提供している UE4 本として、出村成和氏著『Unreal Engine 4 の歩き方』(インプレス直販電子版) が挙げられます。